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034 第三十四回 魔王(まおう)、巧(たく)みに算(さん)りて心猿(しんえん)を困(くるし)む 大聖(たいせい)、騰那(とうな)して宝貝(ほうばい)を騙(かた)る

さて那(か)の両箇(ふたり)の小妖(しょうよう)は、仮(にせ)の葫芦(ひょうたん)を手(て)の中(うち)に拿(と)り、争(あらそ)うて一会(ひととき)看(み)ておったが、忽(ふ)と頭(かしら)を挙(あ)げれば行者(ぎょうじゃ)の見(み)えざるなり。

伶俐虫(れいりちゅう)は言った。「哥(あにき)啊(や)、神仙(しんせん)も亦(ま)た会(よ)く誑語(きょうご=嘘)を打(う)つかな。彼(かれ)宝貝(ほうばい)を換(か)えて我(われ)らを度(ど)して仙(せん)に成(な)さしめんと説(と)けるに、怎(いか)にして辞(ことば)もせず就(すなわ)ち去(ゆ)き了(おわ)れるや?」

精細鬼(せいさいき)は言った。「我(われ)ら相応便宜(そうおうべんぎ=おおいに得)すること多(おお)きのみ、彼(かれ)敢(あ)えて去(ゆ)き得(え)成(な)らんや。葫芦(ひょうたん)を拿(と)り過(わた)せ、我(われ)に天(てん)を装(い)らしめ、也(ま)た試演試演(しえんしえん=試しにやって)して看(み)しめよ。」

真個(しんこ)に葫芦(ひょうたん)を把(もっ)て上(うえ)へ一抛(ひとなげ)すれば、撲(ぼく=ぽん)と就(すなわ)ち落(お)ち将(ゆ)き下(くだ)る。慌(あわ)てたる箇(ひとり)の伶俐虫(れいりちゅう)は道(い)わく、「怎(いか)にして装(い)らざるや!装(い)らず!莫(も)しや是(こ)れ孫行者(そんぎょうじゃ)の仮(いつわ)りて神仙(しんせん)に変(へん)じ、仮(にせ)の葫芦(ひょうたん)を将(もっ)て我(われ)らの真(まこと)のを換(か)え去(さ)れるならんか?」

精細鬼は言った。「胡説(こせつ=でたらめ)するなかれ!孫行者(そんぎょうじゃ)は是(こ)れ那(か)の三座(みっつ)の山(やま)に圧(お)さえ住(とど)められたるに、怎生(いか)でか出(い)で得(え)んや。拿(と)り過(わた)せ、我(われ)に彼(かれ)が那(か)の幾句(いくく)の呪児(じゅじ)を念(とな)えて装(い)れて看(み)しめよ。」

此(こ)の怪(かい)も亦(ま)た葫芦児(ひょうたん)を把(もっ)て空(くう)に望(むか)いて投(な)げ起(おこ)し、口(くち)のうちに念(とな)えて道(い)わく、「若(も)し半声(ひとこえ)も肯(がえん)ぜざること有(あ)らば、就(すなわ)ち霊霄殿(れいしょうでん)の上(うえ)に上(のぼ)り、刀兵(とうへい)を動(うご)かさん!」

念(とな)え了(おわ)らざるに、撲(ぼく)と又(また)落(お)ち将(ゆ)き下(くだ)る。両妖(りょうよう)は道(い)わく、「装(い)らず装(い)らず!

一定(きっと)是(こ)れ箇(ひとつ)の仮(にせ)なり。」

正(まさ)に嚷(わめ)く処(ところ)、孫大聖(そんたいせい)は半空(はんくう)の裏(うち)に在(あ)りて明(あきらか)に聴(き)き得(え)、真実(しんじつ)に看(み)え着(つ)けたり。恐(おそ)るるは彼(かれ)の弄(いじ)る時辰(じしん=時)の多(おお)きにして、緊要(きんよう=肝心)の処(ところ)より風訊(ふうじん=消息)を走(はし)らせば、身(み)を将(もっ)て一抖(ひとふるい)し、那(か)の葫芦(ひょうたん)に変(へん)ぜし毫毛(ごうもう)を把(もっ)て、身(み)の上(うえ)に収(おさ)め来(きた)り、那(か)の両妖(りょうよう)をして四手(よんしゅ=両手両足)皆(みな)空(むな)しからしめたり。

精細鬼は言った。「兄弟(けいてい)、葫芦(ひょうたん)を拿(と)り来(こ)よ。」

伶俐虫は言った。「汝(なんじ)の拿(と)り着(つ)けたるなり。」

「天(てん)呀(や)!怎(いか)にして見(み)えざるや?」

都(ことごと)く去(ゆ)きて地下(ちか)を乱(みだ)りに摸(さぐ)り、草(くさ)の裏(うち)を胡(やたら)に尋(たず)ね、袖子(そで)を吞(の)み、腰間(ようかん)に揣(いだ)くも、那処(どこ)に得(え)んや。二妖(によう)は嚇(おどろ)かされて呆呆掙掙(ほうほうそうそう=ぼう然)として道(い)わく、「怎(いか)にせば好(よ)からん!怎(いか)にせば好(よ)からん!当時(そのかみ)大王(だいおう)の宝貝(ほうばい)を将(もっ)て我(われ)らに付(ふ)し与(あた)え、孫行者(そんぎょうじゃ)を拿(と)らしめよと教(おし)えたるに、今(いま)行者(ぎょうじゃ)は既(すで)に曾(かつ)て拿(とら)え得(え)ず、宝貝(ほうばい)すら都(ことごと)く見(み)えずなりぬ。我(われ)ら怎(いか)で敢(あ)えて去(ゆ)きて回話(かいわ=返事)せんや。此(こ)の一頓(ひとくさり)の直直(ちょくちょく=まっすぐ)に打(う)ち死(ころ)さるるのみ!怎(いか)にせば好(よ)からん!怎(いか)にせば好(よ)からん!」

伶俐虫は言った。

「我(われ)ら走(に)げ了(おわ)らんか。」

精細鬼は言った。「那処(どこ)へ往(ゆ)きて走(に)ぐるや?」

伶俐虫は言った。「何処(いずこ)へ往(ゆ)きて走(に)ぐも管(かま)わず、罷(や)めんか。若(も)し回(かえ)り去(さ)りて宝貝(ほうばい)無(な)しと説(い)わば、断然(だんぜん)是(こ)れ命(いのち)を送(おく)るのみ。」

精細鬼は言った。「走(に)ぐること勿(なか)れ、還(ま)た回(かえ)り去(ゆ)かん。二大王(にだいおう)は平日(へいじつ)汝(なんじ)を看(み)ること甚(はなは)だ好(よ)し。我(われ)一句児(ひとこと)を推(お)して汝(なんじ)が身(み)の上(うえ)に在(あ)らしめん。彼(かれ)若(も)し肯(がえん)じて将就(しょうしゅ=大目に見る)せば、性命(せいめい)を留(とど)め得(え)ん。説(と)き過(す)ぎずんば、就(すなわ)ち打(う)ち死(ころ)さるるも、還(ま)た此間(ここ)に在(あ)らん。两頭(りょうとう)とも着(つ)かざるを弄(な)すこと莫(なか)れ。去(ゆ)かん来(きた)らん、去(ゆ)かん来(きた)らん!」

那(か)の怪(かい)は商議(しょうぎ)し了(おわ)り、歩(あゆみ)を転(めぐ)らして山(やま)に回(かえ)る。

行者(ぎょうじゃ)は半空(はんくう)の中(うち)に在(あ)りて彼(かれ)の回(かえ)り去(ゆ)くを見(み)、又(また)身(み)を揺(ゆ)るがして一変(いっぺん)し、変(へん)じて蝿児(はいじ=蝿)と作(な)り、飛(と)び下(お)り去(ゆ)きて小妖(しょうよう)に跟(したが)う。汝(なんじ)は彼(かれ)既(すで)に蝿(はえ)に変(へん)ぜば、那(か)の宝貝(ほうばい)は却(かえ)って何処(いずこ)に放(お)きしと道(い)わんや。若(も)し路(みち)の上(うえ)に投(なげう)てば、草(くさ)の裏(うち)に蔵(かく)して、人(ひと)に見(み)られて拿(と)り去(さ)られなば、却(かえ)って是(こ)れ労(ろう)して功(こう)無(な)きに非(あら)ずや。彼(かれ)は還(ま)た身(み)に帯(たい)し在(あ)り。身(み)に帯(たい)し在(あ)るとは啊(や)、蝿(はえ)は豆粒(まめつぶ)の大小(おおいさ)に過(す)ぎざるに、如何(いか)でか容(い)るることを得(え)んや。原来(もと)彼(かれ)が那(か)の宝貝(ほうばい)は、彼(かれ)が金箍棒(きんこぼう)と相同(あいおなじ)く、如意仏宝(にょいぶっぽう)と叫做(よば)れ、身(み)に随(したが)いて変化(へんげ)し、大(だい)なる可(べ)く、小(しょう)なる可(べ)きが故(ゆえ)に、身(み)の上(うえ)にも亦(ま)た容(い)るることを得(え)るなり。

彼(かれ)は嚶(えい)的一声(ひとこえ)に飛(と)び下(おり)去(ゆ)き、那(か)の怪(かい)に跟(した)い定(さだ)め、多(あま)たずして、洞(ほら)の裏(うち)に到(いた)れり。只(た)だ見(み)る、那(か)の両箇(ふたり)の魔頭(まとう)の、那処(あそこ)に坐(ざ)して酒(さけ)を飲(の)めるを。小妖(しょうよう)は上(かみ)に朝(むか)いて跪(ひざまず)き下(おろ)し、行者(ぎょうじゃ)は就(すなわ)ち那(か)の門櫃(もんき=扉の框)の上(うえ)に釘(と)り着(つ)き、耳(みみ)を側(そばだ)てて聴(き)く。

小妖は言った。「大王(だいおう)。」

二老魔(にろうま)は即(すなわ)ち杯(さかずき)を停(とど)めて道(い)わく、「汝(なんじ)ら来(きた)れるか?」

小妖は言った。「来(きた)れり。」

又(また)問(と)う、「孫行者(そんぎょうじゃ)を拿(とら)え着(つ)けたるや否(いな)や?」

小妖は叩頭(こうとう)し、敢(あ)えて声(こえ)を言(い)わず。老魔(ろうま)は又(また)問(と)うも、又(また)敢(あ)えて応(こた)えず、只(た)だ叩頭(こうとう)するのみ。之(これ)を問(と)うこと再三(さいさん)なれば、小妖(しょうよう)は俯伏(ふふく=ひれ伏し)して地(ち)に在(あ)りて道(い)わく、

「小(ちいさ)き者(もの)らの万千(ばんせん)の死罪(しざい)を赦(ゆる)せ!小(ちいさ)き者(もの)らの万千(ばんせん)の死罪(しざい)を赦(ゆる)せ!

我(われ)ら宝貝(ほうばい)を執(と)り、半山(はんざん)の中(うち)に走(はし)り到(いた)るに、忽(たちま)ち蓬莱山(ほうらいさん)の一箇(ひとり)の神仙(しんせん)に遇(あ)えり。彼(かれ)我(われ)らに那処(いずこ)へ去(ゆ)くと問(と)えば、我(われ)ら答(こた)えて道(い)わく『孫行者(そんぎょうじゃ)を拿(とら)えに去(ゆ)く』と。那(か)の神仙(しんせん)は孫行者(そんぎょうじゃ)と説(い)えるを聴(き)きて、彼(かれ)も亦(ま)た彼(かれ)を悩(なや)み、我(われ)らと与(とも)に功(こう)を幇(たす)けんと要(よう)せり。是(こ)れ我(われ)ら曾(かつ)て彼(かれ)に功(こう)を幇(たす)けんことを叫(よ)ばざりしが、却(かえ)って宝貝(ほうばい)を拿(と)りて人(ひと)を装(い)るるの情由(じょうゆ=事情)を、彼(かれ)と与(とも)に説(と)き了(おわ)れり。那(か)の神仙(しんせん)にも亦(ま)た一箇(ひとつ)の葫芦(ひょうたん)有(あ)り、善(よ)く能(よ)く天(てん)を装(い)る。我(われ)らも亦(ま)た是(こ)れ妄想(もうそう=むやみ)の心(こころ)、家(いえ)を養(やしな)うの意(い)にて、彼(かれ)が天(てん)を装(い)るを、我(わ)が人(ひと)を装(い)ると、彼(かれ)と与(ともに)換(か)えんかとせり。原(もと)説(と)けるは葫芦(ひょうたん)に葫芦(ひょうたん)を換(か)え、伶俐虫(れいりちゅう)又(また)彼(かれ)に一箇(ひとつ)の浄瓶(じょうへい)を貼(てんぷ)せり。誰(たれ)か想(おも)わん、彼(かれ)が仙家(せんけ=仙人)の物(もの)は、凡人(ぼんじん)の手(て)に近(ちか)づくことを得(え)ず、正(まさ)に試演(しえん=試し)する処(ところ)に、就(すなわ)ち人(ひと)すら都(ことごと)く見(み)えざるなり。万(よろず)望(のぞ)む、小(ちいさ)き者(もの)らの死罪(しざい)を饒(ゆる)せ!」

老魔(ろうま)は説(と)くを聴(き)きて、暴躁(ぼうそう=荒れ狂う)すること雷(かみなり)の如(ごと)く、道(い)わく、「罷(や)めり!罷(や)めり!是(こ)れは是(こ)れ孫行者(そんぎょうじゃ)の仮(いつわ)りて神仙(しんせん)に妝(よそお)い、騙(だま)し哄(たぶらか)して去(ゆ)けるなり!那(か)の猴頭(こうとう=猿め)は神通(じんつう)広大(こうだい)、到(いた)る処(ところ)人(ひと)に熟(なじ)み、那(ど)の箇(ひとり)の毛神(もうしん=卑しき神)か彼(かれ)を放(はな)ち出(いだ)して、宝貝(ほうばい)を騙(かた)り去(ゆ)かしめたるを知(し)らず!」

二魔(にま)は言った。「兄長(けいちょう)怒(いか)りを息(やす)めよ。叵耐(はなはだ)那(か)の猴頭(こうとう)は着然(ちゃくぜん=まこと)に無礼(ぶれい)なり。既(すで)に手段(しゅだん)有(あ)らば、便(すなわ)ち走(に)げ了(おわ)るも也(ま)た罷(や)めんに、怎(いか)にして又(また)宝貝(ほうばい)を騙(かた)るや。我(われ)若(も)し本事(ほんじ=腕前)無(な)くして彼(かれ)を拿(とら)えずんば、永(とこしえ)に西方(さいほう)の路(みち)の上(うえ)に在(あ)りて怪(かい)と為(な)らじ!」

老魔は言った。「怎生(いか)にして彼(かれ)を拿(とら)えんや?」

二魔は言った。「我(われ)らに五件(いつつ)の宝貝(ほうばい)有(あ)り、両件(ふたつ)を去(うしな)いて、還(ま)た三件(みっつ)有(あ)り。務(つと)めて彼(かれ)を拿(とら)え住(とど)めんと要(よう)す。」

老魔は言った。「還(ま)た那(ど)の三件(みっつ)有(あ)るや?」

二魔は言った。「還(ま)た七星剣(しちせいけん)と芭蕉扇(ばしょうせん)は我(わ)が身辺(しんぺん=身辺)に在(あ)り、那(か)の一条(ひとすじ)の幌金縄(こうきんじょう)は、圧竜山(あつりゅうざん)圧竜洞(あつりゅうどう)の老母親(ろうぼしん=母上)の那処(あそこ)に在(あ)りて収(おさ)め着(つ)けたり。如今(いま)両箇(ふたり)の小妖(しょうよう)を差(つかわ)して母親(ぼしん)を請(まね)き来(きた)らせ、唐僧(とうそう)の肉(にく)を食(く)わしめんとし、就(すなわ)ち彼(かれ)に教(おし)えて幌金縄(こうきんじょう)を帯(たい)し来(きた)らせ、孫行者(そんぎょうじゃ)を拿(とら)えんとす。」

老魔は言った。

「那(ど)の箇(ひとり)を差(つかわ)すや?」

二魔は言った。「此(こ)れ等(ほど)の廃物(はいぶつ=役立たず)を差(つかわ)さじ!」

将(もっ)て精細鬼(せいさいき)・伶俐虫(れいりちゅう)を一声(ひとこえ)に喝(かつ)し起(おこ)せば、二人(ふたり)は道(い)わく、「造化(ぞうか=幸運)!造化(ぞうか)!打(う)たるることも也(ま)た曾(かつ)てせず、罵(ののし)らるることも也(ま)た曾(かつ)てせず、却(かえ)って就(すなわ)ち饒(ゆる)されたり。」

二魔は言った。「那(か)の常随(じょうずい=常付き)の伴当(ばんとう=従者)巴山虎(はさんこ)・倚海龍(いかいりゅう)を叫(よ)んで来(こ)よ。」

二人(ふたり)は跪(ひざまず)き下(おろ)す。二魔は吩咐(いいつけ)て道(い)わく、「汝(なんじ)却(かえ)って要(よう)す小心(しょうしん=慎重)なるを。」

俱(とも)に応(こた)えて道(い)わく、「小心(しょうしん)。」

「却(かえ)って要(よう)す仔細(しさい=入念)なるを。」

俱(とも)に応(こた)えて道(い)わく、「仔細(しさい)。」

又(また)問(と)うて道(い)わく、「汝(なんじ)老奶奶(ろうばばさま=御母堂)の家(いえ)を認(みと)め得(う)るや?」

又(また)俱(とも)に応(こた)えて道(い)わく、「認(みと)め得(う)。」

「汝(なんじ)既(すで)に認(みと)め得(う)れば、汝(なんじ)快(すみ)やかに早(はや)く走動(はしりうご)け、老奶奶(ろうばばさま)の処(もと)に到(いた)り、多(おお)く拜上(はいじょう)せよ、説(い)え『請(こ)う、唐僧(とうそう)の肉(にく)を食(く)いに来(きた)れ』と。就(すなわ)ち着(つ)けて幌金縄(こうきんじょう)を帯(たい)し来(きた)らせ、孫行者(そんぎょうじゃ)を拿(とら)えんと要(よう)す。」

二怪(にかい)は命(めい)を領(う)けて疾(すみ)やかに走(はし)る。怎(いか)でか那(か)の行者(ぎょうじゃ)の旁(かたわら)に在(あ)りて、一一(いちいち)明(あきらか)に聴(き)き得(えた)るを知(し)らんや。彼(かれ)は翅(つばさ)を展開(てんかい)し、飛(と)び将(ゆ)き去(さ)り、巴山虎(はさんこ)に追(お)い上(のぼ)り、彼(かれ)が身(み)の上(うえ)に釘(と)り着(つ)けり。

行(ゆ)くこと二三里(にさんり)にして、就(すなわ)ち彼(かれ)両箇(ふたり)を打(う)ち殺(ころ)さんと要(よう)せしが、又(また)思(おも)えらく、「彼(かれ)らを打(う)ち殺(ころ)すは、何(なん)の難事(なんじ)かあらん。但(た)だ彼(かれ)が奶奶(ばばさま)の身辺(しんぺん)に那(か)の幌金縄(こうきんじょう)有(あ)り、又(また)何処(いずこ)に住(す)むを知(し)らざれば、我(われ)に且(しばら)く彼(かれ)に一問(いちもん)問(と)うてより再(ふたた)び打(う)たしめよ。」

好(よ)き行者(ぎょうじゃ)、嚶(えい)的一声(ひとこえ)に、小妖(しょうよう)を離(はな)れ避(よ)けし、彼(かれ)をして先(さき)に行(ゆ)くこと百十歩(ひゃくじっぽ)有(あ)らしめ、却(かえ)って又(また)身(み)を揺(ゆ)るがして一変(いっぺん)し、也(ま)た変(へん)じて箇(ひとり)の小妖児(しょうようじ)を作(な)し、一頂(いっちょう)の狐皮帽子(こひぼうし=狐皮の帽子)を戴(いただ)き、虎皮裙(こひくん)を将(もっ)て倒(さかさま)に插(さ)し上(あ)げ来(きた)りて勒(し)め住(とど)め、追(お)い上(のぼ)りて道(い)わく、

「路(みち)を行(ゆ)く者(もの)よ、我(われ)を一等(ひととき)待(ま)て。」

那(か)の倚海龍(いかいりゅう)は頭(かしら)を回(めぐ)らして問(と)うて道(い)わく、「那処(いずこ)より来(きた)れるや?」

行者は言った。「好(よ)き哥(あにき)啊(や)、連(つら)なる自家人(じかじん=身内)すら也(ま)た認(みと)め得(え)ざるや?」

小妖は言った。「我(わ)が家(いえ)に汝(なんじ)無(な)し。」

行者は言った。「怎(いか)で我(われ)無(な)からん。汝(なんじ)再(ふたた)び認(みと)め認(みと)めて看(み)よ。」

小妖は言った。「面生(みなれぬ)なり面生(みなれぬ)なり、曾(かつ)て相会(まみ)えず。」

行者は言った。「正是(まさにそう)、汝(なんじ)ら曾(かつ)て我(われ)に会(まみ)えざりしなり。我(われ)は是(こ)れ外班(がいはん=外部の組)の者(もの)なり。」

小妖は言った。

「外班(がいはん)の長官(ちょうかん)なるか、是(こ)れ曾(かつ)て会(まみ)えず。汝(なんじ)那処(いずこ)へ往(ゆ)くや?」

行者は言った。「大王(だいおう)説(と)けるは、汝(なんじ)二位(ふたり)を差(つかわ)して老奶奶(ろうばばさま)を請(まね)き来(きた)らせ、唐僧(とうそう)の肉(にく)を食(く)わしめんとし、彼(かれ)に教(おし)えて就(すなわ)ち幌金縄(こうきんじょう)を帯(たい)し来(きた)らせ、孫行者(そんぎょうじゃ)を拿(とら)えんとす。恐(おそ)るるは汝(なんじ)二位(ふたり)の走(はし)ること緩(ゆる)く、些(いささ)か貪頑(たんがん=遊び呆け)して、正事(せいじ)を誤(あやま)らんことを。又(また)我(われ)を差(つかわ)して来(きた)りて汝(なんじ)らに催(うなが)して快(すみ)やかに去(ゆ)かしめよと。」

小妖(しょうよう)は海底眼(かいていがん=核心)を説(と)き着(つ)くるを見(み)て、更(さら)に疑(うたが)わず、行者(ぎょうじゃ)を果(はた)して認(みと)めて一家人(いっかじん)と做(な)し、急急忙忙(きゅうきゅうぼうぼう)として、前(まえ)へ飛(と)び跑(はし)り、一気(ひと息)に又(また)跑(はし)ること八九里(はっきゅうり)有(あ)り。

行者は言った。「忒(あまり)に走(はし)ること快(すみ)やかなり。我(われ)ら家(いえ)を離(はな)れて多少(いくほど)の路(みち)有(あ)るや?」

小怪(しょうかい)は言った。「十五六里(じゅうごろくり)有(あ)り。」

行者は言った。「還(ま)た多遠(いかほど)有(あ)るや?」

倚海龍(いかいりゅう)は手(て)を用(もち)いて一指(ひとさし)して道(い)わく、「烏林子(うりんし=黒き林)の裏(うち)が就(すなわ)ち是(こ)れなり。」

行者は頭(かしら)を挙(あ)げて一帯(ひとすじ)の黒林(こくりん)の遠(とお)からざるを見(み)、料(おもんぱか)るに那(か)の老怪(ろうかい)は只(た)だ林子(はやし)の裏(うち)外(そと)に在(あ)るならんと。却(かえ)って歩(あゆみ)を立(た)て定(さだ)め、那(か)の小怪(しょうかい)をして前(まえ)に走(はし)らしめ、即(すなわ)ち鉄棒(てつぼう)を取(と)り出(いだ)し、上前(すす)みて、脚(あし)の後(うし)ろを着(つ)けて一刮(ひとひねり)せり。

憐(あわ)れむ可(べ)し、忒(あまり)に打(う)つに禁(た)えず、就(すなわ)ち両箇(ふたり)の小妖(しょうよう)を把(もっ)て刮(ひね)って一団(ひとかたまり)の肉餅(にくへい=肉の餅)と做(な)し、却(かえ)って脚(あし)を拖(ひ)きて、路傍(ろぼう)の深(ふか)き草科(そうか=草むら)の裏(うち)に蔵(かく)せり。

即(すなわ)ち便(すみ)やかに一根(ひとすじ)の毫毛(ごうもう)を抜(ぬ)き下(おろ)し、一口(ひとくち)の仙気(せんき)を吹(ふ)き、「変(へん)ぜよ!」と叫(さけ)べば、変(へん)じて箇(ひとり)の巴山虎(はさんこ)を作(な)し、自身(じしん)は却(かえ)って変(へん)じて箇(ひとり)の倚海龍(いかいりゅう)と作(な)り、仮(いつわ)りて両箇(ふたり)の小妖(しょうよう)に妝(よそお)い做(な)し、径(ただ)ちに那(か)の圧竜洞(あつりゅうどう)に往(ゆ)きて老奶奶(ろうばばさま)を請(まね)く。此(こ)れを叫做(よば)れて

七十二変(しちじゅうにへん)は神通(じんつう)大(だい)に
物(もの)を指(さ)し騰那(とうな)するは手段(しゅだん)高(たか)し

と。

三五歩(さんごほ)にして、林子(はやし)の裏(うち)に跳(と)び到(いた)り、正(まさ)に找尋(そうじん=探す)する処(ところ)、只(た)だ見(み)る、両扇(りょうせん=二枚)の石門(せきもん)の、半(なか)ば開(ひら)き半(なか)ば掩(おお)える有(あ)り。敢(あ)えて擅(ほしいまま)に入(い)らず、只(た)だ吆(こえ)を一声(ひとこえ)叫(さけ)ぶを得(え)て道(い)わく、「開門(かいもん)!開門(かいもん)!」

早(はや)くも那(か)の門(もん)を把(は)せる一箇(ひとり)の女怪(じょかい=女の妖怪)を驚動(きょうどう)し、那(か)の半扇児(はんせんじ=片方の扉)を将(もっ)て開(ひら)きて道(い)わく、「汝(なんじ)は那処(いずこ)より来(きた)れるや?」

行者は言った。「我(われ)は是(こ)れ平頂山(へいちょうざん)蓮花洞(れんかどう)の裏(うち)より差(つかわ)され来(きた)りて老奶奶(ろうばばさま)を請(まね)く者(もの)なり。」

那(か)の女怪(じょかい)は言った。「進(い)れ。」

二層門(にそうもん=二番目の門)の下(した)に到(いた)り、頭(かしら)を闪(ひらめ)かして裏(うち)へ往(ゆ)きて観看(かんかん)するに、又(また)見(み)る、那(か)の正(まさ)に当(ま)たる中(なか)に高(たか)く坐(ざ)せる一箇(ひとり)の老媽媽児(ろうばばじ=老婆)有(あ)り。汝(なんじ)彼(かれ)が怎生(いか)なる模様(ようぼう=姿)なるを道(い)わんや。但(ただ)見(み)よ

雪鬢(せつびん=雪の如き鬢)蓬松(ほうしょう=ぼうぼう)とし、星光(せいこう=星の光)晃亮(こうりょう=きらきら)たり
臉皮(れんぴ=顔の皮)紅潤(こうじゅん=赤みを帯び)として皺文(しゅうぶん=皺)多(おお)く、歯牙(しが=歯)稀疏(きしょ=まばら)にして神気(しんき)壮(さか)んなり
貌似(かたち)は菊残(きくざん=菊の残り)霜裏(そうり=霜の中)の色(いろ)、形(かたち)は松老(しょうろう=松の老い)雨余(うよ=雨の後)の顔(かお)の如(ごと)し
頭(かしら)には白練(びゃくれん=白き練り絹)の糸(いと)を集(あつ)めし帕(はちまき)を纏(まと)い、耳(みみ)には黄金(おうごん)の宝(たから)を嵌(は)めし環(わ)を墜(さ)ぐ

孫大聖(そんたいせい)は見(み)て、敢(あ)えて進(い)り入(い)らず、只(た)だ二門(にんもん)の外(そと)に在(あ)りて仵(む)くる臉(かお)をして、脱脱(たったつ=ぽろぽろ)と哭(な)き起(おこ)れり。汝(なんじ)彼(かれ)の哭(な)けるは怎(いか)にと道(い)わんや、莫(も)しや是(こ)れ彼(かれ)を怕(おそ)るるか。

就(たと)い怕(おそ)るるも也(ま)た便(すなわ)ち哭(な)かじ、况(いわん)や先(さき)に彼(かれ)が宝貝(ほうばい)を哄(たぶらか)し、又(また)彼(かれ)が小妖(しょうよう)を打(う)ち殺(ころ)せるに、却(かえ)って何(なん)の為(ため)にか哭(な)くや。彼(かれ)当時(そのかみ)曾(かつ)て九鼎油鍋(きゅうていゆなべ)に下(くだ)り、就(たと)い煠(ゆで)らるること七八日(しちはちにち)なるも也(ま)た曾(かつ)て一点(いってん)の涙児(なみだ)も有(あ)らざりしに、只(た)だ唐僧(とうそう)の経(きょう)を取(と)るの苦悩(くのう)を想起(そうき)するが為(ため)に、彼(かれ)は涙(なみだ)痛腸(つうちょう=痛む腸)より出(い)で、眼(め)を放(はな)ちて便(すなわ)ち哭(な)けり。心(こころ)に却(かえ)って想(おも)えらく、

「老孫(ろうそん)既(すで)に手段(しゅだん)を顕(あら)わし、小妖(しょうよう)に変(へん)じて、此(こ)の老怪(ろうかい)を請(まね)きに来(きた)れるに、直直(ちょくちょく=まっすぐ)に站(た)ちて話(はな)すの理(り)有(あ)ること無(な)し。一定(きっと)彼(かれ)に見(まみ)えて磕頭(かとう=額ずく)してこそ才(はじ)めて可(よ)けれ。我(われ)人(ひと)と為(な)りて一場(ひとくさり)の好漢(こうかん=好漢)を做(な)し、止(ただ)三人(みたり)を拜(はい)せり。西天(さいてん)に仏祖(ぶっそ)を拜(はい)し、南海(なんかい)に観音(かんのん)を拜(はい)し、両界山(りょうかいざん)に師父(しふ)の我(われ)を救(すく)われしに、我(われ)彼(かれ)を拜(はい)すること四拜(よんぱい)せり。彼(かれ)が為(ため)に六葉(ろくよう)の連肝肺(れんかんぱい=肝肺)を使(つか)い砕(くだ)き、三毛七孔心(さんもうしちくしん=心の臓)を用(もち)い尽(つく)せり。一巻(ひとまき)の経(きょう)能(よ)く幾何(いくばく)の値(あたい)かあらん。今日(こんにち)却(かえ)って我(われ)をして往(ゆ)きて此(こ)の怪(かい)を拜(はい)せしむ。若(も)し跪(ひざまず)き拜(はい)せずんば、必(かなら)ず風訊(ふうじん)を走(はし)らせん。

苦(くる)しい啊(や)!算(かぞ)うるに只(た)だ師父(しふ)の困(くるしみ)を受(う)くるが為(ため)に、我(われ)をして人(ひと)に辱(はずかしめ)を受(う)けしむるなり!」

此(こ)の際(きわ)に到(いた)りて也(ま)た及(およ)ぶこと奈何(いかん)も無(な)く、撞(と)び将(ゆ)きて進(い)り、上(かみ)に朝(むか)いて跪(ひざまず)き下(おろ)して道(い)わく、「奶奶(ばばさま)、磕頭(かとう)。」

那(か)の怪(かい)は言った。「我(わ)が児(こ)よ、起(お)きよ。」

行者は暗(あん)に道(い)わく、「好(よ)し!好(よ)し!好(よ)し!叫(よ)ぶこと結実(けつじつ=しっかり)せり!」

老怪(ろうかい)は問(と)うて道(い)わく、「汝(なんじ)は那処(いずこ)より来(きた)れるや?」

行者は言った。「平頂山(へいちょうざん)蓮花洞(れんかどう)より、二位(ふたり)の大王(だいおう)の令(れい)有(あ)るを蒙(こうむ)り、差(つかわ)され来(きた)りて奶奶(ばばさま)を請(まね)き、唐僧(とうそう)の肉(にく)を食(く)わしめんとし、幌金縄(こうきんじょう)を帯(たい)せしめ、孫行者(そんぎょうじゃ)を拿(とら)えんと要(よう)すると教(おし)えられしなり。」

老怪は大(おお)いに喜(よろこ)んで道(い)わく、「好(よ)き孝順(こうじゅん=親孝行)の儿子(むすこ)!」

就(すなわ)ち去(ゆ)きて轎(かご)を抬(かつ)ぎ出(いだ)さしめんとす。行者は道(い)わく、「我(わ)が児(こ)啊(や)!妖精(ようせい)も亦(ま)た轎(かご)を抬(かつ)ぐか!」

後壁廂(こうへきしょう=裏手)に即(すなわ)ち両箇(ふたり)の女怪(じょかい)有(あ)り、一頂(いっちょう)の香藤轎(こうとうきょう=藤の香轎)を抬(かつ)ぎ出(いだ)し、門外(もんがい)に放(お)き、青絹緯幔(せいけんいまん=青絹の帷)を掛(か)け上(あ)げたり。

老怪は身(み)を起(お)こし洞(ほら)を出(い)で、轎(かご)の裏(うち)に坐(ざ)す。後(うしろ)に幾箇(いくたり)かの小女怪(しょうじょかい)有(あ)り、減妝(げんしょう=化粧道具)を捧(ささ)げ、鏡架(きょうか=鏡の台)を端(ただ)しく持(も)ち、手巾(しゅきん=手拭い)を提(さ)げ、香盒(こうごう=香の箱)を托(たく)して、左右(さゆう)に跟随(ついずい)す。

那(か)の老怪(ろうかい)は道(い)わく、

「汝(なんじ)ら来(きた)りて怎(いか)にするや。我(われ)自家(じか)の儿子(むすこ)の去処(ところ)へ往(ゆ)くに、那処(どこ)に人(ひと)の伏侍(ぶくじ=仕える)無(な)きを愁(うれ)えんや、汝(なんじ)らを要(よう)して去(ゆ)きて勤(つとめ)を献(けん)じ嘴(くち)を塌(おと)すか。都(ことごと)く回(かえ)り去(さ)れ!門(もん)を関(とざ)して家(いえ)を看(み)よ!」

那(か)の幾箇(いくたり)かの小妖(しょうよう)は果(はた)して俱(ことごと)く回(かえ)り去(さ)り、止(ただ)両箇(ふたり)の轎(かご)を抬(かつ)ぐ者(もの)のみ。

老怪は問(と)うて道(い)わく、「那(か)の差(つかわ)され来(きた)れるは甚(なん)の名字(な)を叫做(よば)れるや?」

行者は連忙(れんぼう)として答(こた)えて道(い)わく、「彼(かれ)は巴山虎(はさんこ)と叫做(よば)れ、我(われ)は倚海龍(いかいりゅう)と叫做(よば)る。」

老怪は言った。「汝(なんじ)両箇(ふたり)前(まえ)に走(はし)り、我(われ)と与(とも)に路(みち)を開(ひら)け。」

行者は暗(あん)に想(おも)えらく、「可(べ)し是(こ)れ晦気(わき=不運)や!経(きょう)は倒(かえ)って曾(かつ)て取(と)り得(え)ざるに、且(しばら)く来(きた)りて彼(かれ)に替(かわ)りて皂隷(そうれい=下役)を做(な)すとは!」

却(かえ)って又(また)敢(あ)えて抵強(ていきょう=逆らう)せず、只(た)だ向前(まえにすす)みて路(みち)を引(ひ)き、大四声(だいしせい=大声)に喝(かつ)し起(おこ)すを得(え)たり。

行(ゆ)くこと五六里(ごろくり)の遠近(えんきん)にして、彼(かれ)は就(すなわ)ち石崖(せきがい)の上(うえ)に坐(ざ)し、那(か)の轎(かご)を抬(かつ)ぐ者(もの)の到(いた)るを等候(ま)ち、行者(ぎょうじゃ)は道(い)わく、「略(いささ)か歇(やす)み歇(やす)みするは如何(いかん)?圧(おさ)えて肩頭(けんとう=肩)疼(いた)む啊(や)。」

小怪(しょうかい)は那(なん)の訣竅(けっきょう=からくり)を知(し)らざれば、就(すなわ)ち轎子(かご)を把(もっ)て歇(やす)め下(おろ)せり。行者(ぎょうじゃ)は轎(かご)の後(うしろ)に在(あ)り、胸脯(きょうほ=胸)の上(うえ)より一根(ひとすじ)の毫毛(ごうもう)を拔(ぬ)き下(おろ)し、変(へん)じて一箇(ひとつ)の大(おおい)なる焼餅(しょうへい=焼き餅)を作(な)し、抱(いだ)きて啃(かじ)る。

轎夫(きょうふ=駕籠かき)は言った。「長官(ちょうかん)、汝(なんじ)の食(く)えるは是(こ)れ甚(なん)ぞ?」

行者は言った。「好(よ)く説(い)えず。此(こ)の遠(とお)き路(みち)を、奶奶(ばばさま)を請(まね)きに来(きた)るに、些(いささ)かの賞賜(しょうし=褒美)無(な)く、肚裏(はらのうち)飢(う)えたり。原(もと)帯(たい)し来(きた)れる干粮(かんりょう=携帯食)なれば、我(われ)に些(いささ)か食(く)わしめてより再(ふたた)び走(はし)らしめよ。」

轎夫は言った。「些(いささ)か我(われ)らに把(あた)えて食(く)わしめよ。」

行者は笑(わら)うて言った。

「来(こ)よ、都(ことごと)く是(こ)れ一家人(いっかじん)なるに、怎(いか)にして計較(けいこう=勘定)せんや?」

那(か)の小妖(しょうよう)は好歹(よしあし)を知(し)らず、行者(ぎょうじゃ)を囲(かこ)み、其(そ)の干粮(かんりょう)を分(わ)かたんとす。行者(ぎょうじゃ)に棒(ぼう)を掣(ひきぬ)き出(いだ)され、頭(かしら)を着(つ)けて一磨(ひとすり)せられて、一箇(ひとり)の湯(ゆ)に着(あ)きたる者(もの)は、打(う)たれて稀爛(きらん=ぐちゃぐちゃ)となり、

一箇(ひとり)の擦(こす)り着(つ)きたる者(もの)は、死(し)せずして還(ま)た哼(うな)る。

那(か)の老怪(ろうかい)は人(ひと)の哼(うな)るを聴(き)き、轎子(かご)の裏(うち)より頭(かしら)を伸(の)ばし出(いだ)して看(み)る時(とき)、行者(ぎょうじゃ)に轎(かご)の前(まえ)に跳(と)び到(いた)られ、頭(かしら)を劈(つんざ)いて一棍(ひとぼう)打(う)たれて、一箇(ひとつ)の窟窿(くつろう=穴)を打(う)たれ、脳漿(のうしょう=脳味噌)迸(ほとばし)り流(なが)れ、鮮血(せんけつ)直(ただ)ちに冒(ほとばし)れり。轎(かご)より拖(ひ)き出(いだ)して看(み)る処(ところ)、原(もと)是(こ)れ箇(ひとつ)の九尾狐狸(きゅうびこり=九尾の狐)なり。

行者は笑(わら)うて言った。「造孽畜(ぞうげいちく=畜生め)!甚(なん)の老奶奶(ろうばばさま)を叫(よ)ばんや!汝(なんじ)老奶奶(ろうばばさま)を叫(よ)ばば、就(すなわ)ち該(まさ)に老孫(ろうそん)を称(とな)えて上太祖公公(じょうたいそこうこう=曾祖父)と做(な)すべきなり!」

好(よ)き猴王(こうおう)、彼(かれ)が那(か)の幌金縄(こうきんじょう)を捜(さぐ)し出(いだ)し、袖(そで)の裏(うち)に籠(こ)め、歓喜(かんき)して道(い)わく、「那(か)の潑魔(はつま)に縦(たと)い手段(しゅだん)有(あ)るも、已(すで)に此(こ)の三件児(みつ)の宝貝(ほうばい)は姓(せい)を孫(そん)と為(な)せり!」

却(かえ)って又(また)両根(ふたすじ)の毫毛(ごうもう)を拔(ぬ)き、変(へん)じて箇(ひとり)の巴山虎(はさんこ)・倚海龍(いかいりゅう)を作(な)し、又(また)両根(ふたすじ)を拔(ぬ)きて変(へん)じて両箇(ふたり)の轎(かご)を抬(かつ)ぐ者(もの)と作(な)し、彼(かれ)は却(かえ)って変(へん)じて老奶奶(ろうばばさま)の模様(ようぼう=姿)と作(な)り、轎(かご)の裏(うち)に坐(ざ)せり。轎子(かご)を将(もっ)て抬(かつ)ぎ起(おこ)させ、径(ただ)ちに本路(ほんろ=来た道)に回(かえ)る。

多(あま)たずして、蓮花洞(れんかどう)の洞口(どうこう)に到(いた)る。那(か)の毫毛(ごうもう)の変(へん)ぜし小妖(しょうよう)は、俱(ことごと)く前(まえ)に在(あ)りて道(い)わく、「開門(かいもん)!開門(かいもん)!」

内(うち)に門(もん)を把(は)せる小妖(しょうよう)有(あ)り、門(もん)を開(ひら)きて道(い)わく、「巴山虎(はさんこ)・倚海龍(いかいりゅう)来(きた)れるか?」

毫毛(ごうもう)は言った。「来(きた)れり。」

「汝(なんじ)らの請(まね)きし奶奶(ばばさま)は呢(いずこ)ぞ?」

毫毛は手(て)を用(もち)いて指(さ)して道(い)わく、「那(あ)の轎内(きょうない=轎の中)の是(こ)れならずや?」

小怪は言った。「汝(なんじ)且(しばら)く住(とど)まれ、我(われ)に進(い)り去(ゆ)きて先(ま)ず報(ほう)ぜしめよ。」

報(ほう)じて道(い)わく、「大王(だいおう)、奶奶(ばばさま)来(きた)れる耶(かな)。」

両箇(ふたり)の魔頭(まとう)は説(と)くを聞(き)き、即(すなわ)ち香案(こうあん=香の台)を排(なら)べて来(きた)りて接(むか)えしむ。行者(ぎょうじゃ)は聴(き)きて暗(あん)に喜(よろこ)んで道(い)わく、「造化(ぞうか=幸運)!也(ま)た我(われ)の輪(ばん)に人(ひと)と為(な)れるかな!我(われ)先(ま)ず小妖(しょうよう)に変(へん)じ、去(ゆ)きて老怪(ろうかい)を請(まね)き、彼(かれ)に一箇(ひとつ)の頭(こうべ)を磕(ぬか)ずき了(おわ)れり。此(こ)の番(たび)来(きた)れるに、我(われ)は老怪(ろうかい)に変(へん)じ、是(こ)れ彼(かれ)が母親(ぼしん)なれば、定(きっ)と四拜(よんぱい)の礼(れい)を行(おこな)わん。怎(いか)ならずと雖(いえど)も、好(よ)く道(い)わば也(ま)た彼(かれ)の両箇(ふたつ)の頭児(こうべ)を赚(かせ)ぐかな!」

好(よ)き大聖(たいせい)、轎子(かご)を下(お)り、衣服(いふく)を抖(はら)い抖(はら)い、那(か)の四根(よんすじ)の毫毛(ごうもう)を将(もっ)て身(み)の上(うえ)に収(おさ)めたり。那(か)の門(もん)を把(は)せる小妖(しょうよう)は、空(から)の轎(かご)を把(もっ)て門(もん)の裏(うち)に抬(かつ)ぎ入(い)れ、彼(かれ)は却(かえ)って随(したが)い後(うしろ)より徐(しず)かに行(ゆ)く。那(か)の般(ごと)く嬌嬌啻啻(きょうきょうていてい=しなやかに)、扭扭捏捏(じゅうじゅうねつねつ=もったいぶり)として、就(すなわ)ち象(に)たり、那(か)の老怪(ろうかい)の行動(こうどう)に。径自(ただち)に進(い)り去(ゆ)く。

又(また)只(た)だ見(み)る、大小(だいしょう)の群妖(ぐんよう=妖怪ども)の、都(ことごと)く来(きた)りて跪(ひざまず)き接(むか)え、鼓楽簫韶(こがくしょうしょう=太鼓笛の音楽)、一派(いっぱ)響喨(きょうりょう=響き渡り)、博山炉(はくさんろ=香炉)の裏(うち)に、靄靄(あいあい=もうもう)たる香烟(こうえん=香の煙)あり。

彼(かれ)は正庁(せいちょう=表の間)の中(なか)に到(いた)り、南面(なんめん)して坐(ざ)すれば、両箇(ふたり)の魔頭(まとう)は、双膝(そうしつ=両膝)を跪(ひざまず)き倒(たお)し、上(かみ)に朝(むか)いて叩頭(こうとう)し、叫(さけ)んで道(い)わく、「母親(ぼしん)、孩児(がいじ=子)拜揖(はいゆう=拝礼)す。」

行者は言った。「我(わ)が児(こ)よ、起(お)きよ。」

却説(さて)猪八戒(ちょはっかい)は梁(はり)の上(うえ)に吊(つる)されたるに、哈哈(はは)と一声(ひとこえ)笑(わら)えり。沙僧(しゃそう)は言った。「二哥(にいさん)は好(よ)き啊(や)!吊(つ)らるるより笑(わらい)を出(いだ)せるかな!」

八戒は言った。「兄弟(けいてい)、我(わ)が笑(わらい)の中(うち)に故(ゆえ)有(あ)り。」

沙僧は言った。「甚(なん)の故(ゆえ)ぞ?」

八戒は言った。「我(われ)ら只(た)だ怕(おそ)るるは是(こ)れ奶奶(ばばさま)の来(きた)れるに、就(すなわ)ち蒸(ふか)して食(く)わんとすと。原来(もと)是(こ)れ奶奶(ばばさま)に非(あら)ず、旧話(きゅうわ=旧知)の来(きた)れるなり。」

沙僧は言った。「甚(なん)の旧話(きゅうわ)ぞ?」

八戒は笑(わら)うて言った。「弼馬温(ひつばおん)の来(きた)れるなり。」

沙僧は言った。「汝(なんじ)怎(いか)で彼(かれ)と是(こ)れなるを認(みと)め得(う)るや?」

八戒は言った。「腰(こし)を弯(かが)めて『我(わ)が児(こ)よ起(お)きよ』と叫(よ)べば、那(そ)の後(うしろ)に就(すなわ)ち猴(さる)の尾巴子(しっぽ)を掬(ま)き起(おこ)せり。我(われ)は汝(なんじ)より吊(つ)らるること高(たか)ければ、此(こ)の故(ゆえ)に看(み)ること明(あきらか)なり。」

沙僧は言った。「且(しばら)く言語(げんご)すること勿(なか)れ、彼(かれ)の甚(なに)を説(と)くかを聴(き)け。」

八戒は言った。「正是(まさにそう)、正是(まさにそう)。」

那(か)の孫大聖(そんたいせい)は中間(ちゅうかん)に坐(ざ)して問(と)うて道(い)わく、「我(わ)が児(こ)よ、我(われ)を請(まね)きしは何(なん)の事(こと)を幹(な)さんとするや?」

魔頭(まとう)は言った。

「母親啊(や)、連日(れんじつ)児(こ)ら礼(れい)少(すくな)く、曾(かつ)て孝順(こうじゅん)を得(え)ず。今朝(けさ)愚兄弟(ぐけいてい=愚かな兄弟)は東土(とうど)の唐僧(とうそう)を拿(とら)え得(えた)れど、敢(あ)えて擅(ほしいまま)に食(く)わず、母親(ぼしん)を請(まね)き来(きた)りて生(なま)を献(けん)じ、好(よ)く蒸(ふか)して母親(ぼしん)に与(あた)えて食(く)わせ、寿(じゅ)を延(の)べんとす。」

行者は言った。「我(わ)が児(こ)よ、唐僧(とうそう)の肉(にく)は我(われ)は倒(かえ)って食(く)わず、聞(き)くならく箇(ひとつ)の猪八戒(ちょはっかい)の耳朶(みみ)の甚(はなは)だ好(よ)き有(あ)るを。割(き)り将(ゆ)き下(おろ)して整治(せいち=調理)して我(われ)に酒(さけ)の下(さかな)にせしめよ。」

那(か)の八戒(はっかい)は聴(き)きて慌(あわ)てて道(い)わく、「遭瘟(そうおん=疫病)の!

汝(なんじ)来(きた)れるは我(わ)が耳朶(みみ)を割(き)らんが為(ため)なり!我(われ)喊(さけ)び出(いだ)せば好(よ)く聴(き)こえざる啊(や)!」

噫(ああ)、只(た)だ呆子(ほうし)の一句(ひとこと)の情(じょう)に通(つう)ぜる話(はなし)の為(ため)に、猴王(こうおう)の変化(へんげ)の風(ふう=消息)を走(はし)らせり。那処(あそこ)に幾箇(いくたり)かの巡山(じゅんざん)の小怪(しょうかい)、門(もん)を把(は)せる衆妖(しゅうよう)有(あ)り、都(ことごと)く撞(と)び将(ゆ)きて進(い)り、報(ほう)じて道(い)わく、「大王(だいおう)、禍事(かじ=大変)なり!孫行者(そんぎょうじゃ)が奶奶(ばばさま)を打(う)ち殺(ころ)し、仮(いつわ)りて妝(よそお)い来(きた)れる耶(かな)!」

魔頭(まとう)は此(こ)の言(げん)を聞(き)きて、那(なん)の分説(ぶんせつ=言い訳)を容(い)れんや。七星宝剣(しちせいほうけん)を掣(ひきぬ)き、行者(ぎょうじゃ)を望(めが)けて臉(かお)を劈(つんざ)いて砍(き)り来(きた)る。好(よ)き大聖(たいせい)、身(み)を将(もっ)て一幌(ひとゆれ)すれば、只(た)だ見(み)る満洞(まんどう)の紅光(こうこう)、預(あらかじ)め走(に)げ了(おわ)れり。此(か)くの如(ごと)き手段(しゅだん)は、着実(ちゃくじつ)に好(よ)く耍子(しゃし=面白がる)なり、正(まさ)に是(こ)れ那(か)の

聚(あつま)れば則(すなわ)ち形(かたち)を成(な)し
散(ち)れば則(すなわ)ち気(き)と成(な)る

なり。嚇(おどろ)かされたる箇(ひとり)の老魔頭(ろうまとう)は魂(たましい)飛(と)び魄(たましい)散(さん)じ、衆(しゅう)の群精(ぐんせい=妖怪ども)は指(ゆび)を噬(か)み頭(かしら)を揺(ゆす)ぶ。

老魔は言った。「兄弟(けいてい)よ、唐僧(とうそう)と沙僧(しゃそう)・八戒(はっかい)・白馬(はくば)・行李(こうり)を都(ことごと)く把(もっ)て那(か)の孫行者(そんぎょうじゃ)に送(おく)り還(かえ)し、是非(ぜひ=争い)の門(もん)を閉(とざ)さんか。」

二魔は言った。「哥哥(あにき)、汝(なんじ)那処(どこ)の話(はなし)を説(と)くや。我(われ)多少(いくほど)の辛勤(しんきん=苦労)を費(つい)やしたるを知(し)らず、此(こ)の計策(けいさく)を施(ほどこ)し、那(か)の和尚(おしょう)を将(もっ)て都(ことごと)く摂(ひきよ)せ将(きた)れるなり。如今(いま)汝(なんじ)が此(か)くの等(ごと)く孫行者(そんぎょうじゃ)の詭譎(きけつ=策略)を怕懼(おそれ)するに似(に)たれば、就(すなわ)ち俱(とも)に送(おく)り去(さ)りて彼(かれ)に還(かえ)さんか。真(まこと)に所謂(いわゆる)刀(かたな)を畏(おそ)れ剣(けん)を避(さ)くるの人(ひと)にして、豈(あに)大丈夫(だいじょうふ)の為(な)す所(ところ)ならんや。

汝(なんじ)且(しばら)く請(こ)う坐(ざ)して懼(おそ)るること勿(なか)れ。我(われ)汝(なんじ)の孫行者(そんぎょうじゃ)神通(じんつう)広大(こうだい)なりと説(と)けるを聞(き)けども、我(われ)彼(かれ)と与(とも)に相会(まみ)えること一場(ひとくさり)有(あ)りしも、却(かえ)って曾(かつ)て彼(かれ)と与(とも)に比試(ひし=試合)せず。披掛(ひかけ=甲冑)を取(と)り来(こ)よ、我(われ)に彼(かれ)を尋(たず)ねて交戦(こうせん)すること三合(さんごう)せしめよ。仮若(かりに)彼(かれ)三合(さんごう)に我(われ)に勝(か)つこと過(す)ぎずんば、唐僧(とうそう)は還(ま)た是(こ)れ我(われ)らの食(しょく)なり。如(も)し三戦(さんせん)して我(われ)彼(かれ)に勝(か)つこと能(あた)わずんば、其(そ)の時(とき)再(ふたた)び唐僧(とうそう)を彼(かれ)に送(おく)るも遅(おそ)からず。」

老魔は言った。「賢弟(けんてい)の説(と)けるは是(せい)なり。」教(いいつけ)て道(い)わく、「披掛(ひかけ)を取(と)れ。」

衆妖(しゅうよう)は披掛(ひかけ)を抬(かつ)ぎ出(いだ)し、二魔(にま)は結束(けっそく=身支度)斉整(せいせい=整い)、宝剣(ほうけん)を執(と)りて門外(もんがい)に出(い)で、一声(ひとこえ)叫(さけ)んで道(い)わく、「孫行者(そんぎょうじゃ)!汝(なんじ)那処(いずこ)へ走(に)げ往(ゆ)けるや?」

此(こ)の時(とき)大聖(たいせい)は已(すで)に雲端(うんたん)の裏(うち)に在(あ)り、彼(かれ)が名(な)を叫(よ)ぶを聞(き)き、急(いそ)ぎ頭(かしら)を回(めぐ)らして観看(かんかん)すれば、原来(もと)是(こ)れ那(か)の二魔(にま)なり。汝(なんじ)看(み)よ彼(かれ)が怎生(いか)なる扮装(いでたち)なるを

頭(かしら)には鳳盔(ほうかい=鳳の兜)を戴(いただ)きて臘雪(ろうせつ=臘月の雪)を欺(あなど)り、身(み)には戦甲(せんこう=鎧)を披(き)て鑌鉄(ひんてつ=良質の鉄)を幌(きらめ)かす
腰間(ようかん)の帯(おび)は是(こ)れ蟒竜筋(もうりゅうきん=大蛇と竜の筋)、粉皮靴(ふんぴか=白革の靴)の靿(くつわき=筒)は梅花(ばいか)の摺(ひだ)なり
顔(かお)は灌口(かんこう)の活真君(かつしんくん=生ける二郎神)の如(ごと)く、貌(かたち)は巨霊(きょれい=巨霊神)に比(ひ)して二別(ふたつのへだて)無(な)し
七星宝剣(しちせいほうけん)を手(て)の中(うち)に擎(ささ)げ、怒気(どき)霄(そら)を冲(つ)いて威(い)烈烈(れつれつ)たり

二魔は高(たか)く叫(さけ)んで道(い)わく、「孫行者(そんぎょうじゃ)!快(すみ)やかに我(わ)が宝貝(ほうばい)と我(わ)が母親(ぼしん)を還(かえ)せ、我(われ)汝(なんじ)が唐僧(とうそう)を饒(ゆる)して経(きょう)を取(と)りに去(ゆ)かしめん!」

大聖は忍(しの)び得(え)ず罵(ののし)って言った。「此(こ)の潑怪物(はつかいぶつ)め、汝(なんじ)が孫外公(そんがいこう=孫じいさん)を錯(あやま)りて認(みと)めるかな!早(はや)き児(こと)に我(わ)が師父(しふ)・師弟(してい)・白馬(はくば)・行嚢(こうのう=荷物)を送(おく)り還(かえ)し、仍(な)お我(われ)に些(いささ)かの盤纏(ばんてん=路銀)を打発(ほうはつ=持た)せ、西(にし)へ路(みち)を行(ゆ)かしめよ。若(も)し牙(きば)の縫(すきま)の裏(うち)より半箇(はんこ)の不(ふ)の字(じ)を道(い)わば、就(すなわ)ち自家(じか)で一筋(ひとすじ)の縄児(なわ)を搓(よ)りて去(ゆ)け、也(ま)た汝(なんじ)が外公(がいこう=じいさん)の手(て)を動(うご)かすを免(まぬか)れんに。」

二魔はこれを聞き、急(いそ)ぎ雲(くも)に縦(のぼ)りて空(くう)の中(うち)に跳(と)び、宝剣(ほうけん)を輪(めぐ)らして来(きた)りて刺(さ)す。行者(ぎょうじゃ)は鉄棒(てつぼう)を掣(ひきぬ)き、手(て)を劈(つんざ)いて相迎(むか)えたり。

彼(かれ)両箇(ふたり)は半空(はんくう)の中(うち)に在(あ)りて、此(こ)の場(ひとくさり)の好(よ)き殺(たたかい)なり。

棋(ご)は対手(たいしゅ=好敵手)に逢(あ)い、将(しょう)は良才(りょうさい=優れた将才)に遇(あ)う
棋(ご)の対手(たいしゅ)に逢(あ)えば興(きょう)を蔵(かく)し難(がた)く、将(しょう)の良才(りょうさい)に遇(あ)えば功(こう)を用(もち)う可(べ)し
那(か)の両員(りょういん)の神将(しんしょう)の相交(あいまじわ)るは、好(よ)く便(すなわ)ち南山(なんざん)の虎(とら)の闘(たたかい)、北海(ほっかい)の竜(りゅう)の争(あらそい)に似(に)たり
竜(りゅう)争(あらそ)う処(ところ)には、鱗甲(りんこう=鱗)輝(かがやき)を生(しょう)じ、虎(とら)闘(たたか)う時(とき)には、爪牙(そうが=爪と牙)乱(みだ)りに落(お)つ
爪牙(そうが)乱(みだ)りに落(お)ちて銀鉤(ぎんこう=銀の鉤)を撒(ま)き、鱗甲(りんこう)輝(かがやき)を生(しょう)じて鉄葉(てつよう=鉄の葉)を支(ささ)う
此(こ)の一箇(ひとり)は翻翻復復(ほんぽんふくふく)として、千般(せんぱん)の解数(かいすう=技)有(あ)り
那(か)の一箇(ひとり)は来来往往(らいらいおうおう)として、半点(はんてん)の放閑(ほうかん=暇)も無(な)し
金箍棒(きんこぼう)は、頂門(ちょうもん=頭頂)を離(はな)るること只(た)だ三分(さんぶ)を隔(へだ)つるのみ
七星剣(しちせいけん)は、心窩(しんか=胸)に向(むか)うて惟(た)だ一蹍(いってん=僅か)を争(あらそ)う
那(か)の威風(いふう)は逼(せま)りて斗牛(とぎゅう=星宿)をして寒(かん)ならしめ、此(こ)の怒気(どき)は雷電(らいでん)よりも勝(まさ)って険(けわ)し

彼(かれ)両箇(ふたり)は戦(たたか)うこと三十回合(さんじゅうがいごう)有(あ)りて、勝負(しょうぶ)を分(わ)かたず。

行者は暗(あん)に喜(よろこ)んで道(い)わく、「此(こ)の潑怪(はつかい)は倒(かえ)って也(ま)た老孫(ろうそん)が鉄棒(てつぼう)を架(ささ)え住(とど)むる可(べ)し!我(われ)已(すで)に彼(かれ)が三件(みっつ)の宝貝(ほうばい)を得(え)たるに、却(かえ)って此(か)くの般(ごと)く苦苦(くく=しきり)と彼(かれ)と厮殺(しさつ=斬り合い)するは、我(わ)が工夫(くふう=時間)を誤(あやま)らずや。若(も)しは葫芦(ひょうたん)或(あるい)は浄瓶(じょうへい)を拿(と)りて彼(かれ)を装(い)り去(ゆ)かば、多少(いかほど)か好(よ)からん。」

又(また)想(おも)えらく、「不好(よくない)!不好(よくない)!常言(じょうげん)に道(い)わく『物(もの)は主(あるじ)に随(したが)うて便(べん)なり』と。倘(も)し我(われ)彼(かれ)を叫(よ)んで応(こた)えざらば、却(かえ)って又(また)事業(じぎょう=大事)を誤(あやま)らずや。且(しばら)く幌金縄(こうきんじょう)を使(つか)うて頭(かしら)を扣(から)めんか。」

好(よ)き大聖(たいせい)、一只手(かたて)にて棒(ぼう)を使(つか)い、彼(かれ)が宝剣(ほうけん)を架(ささ)え住(とど)め、一只手(かたて)にて那(か)の縄(なわ)を把(もっ)て抛(な)げ起(おこ)し、刷喇(さつらつ)と魔頭(まとう)を扣(から)めたり。

原来(もと)那(か)の魔頭(まとう)に一箇(ひとつ)の《緊縄呪(きんじょうじゅ)》有(あ)り、一箇(ひとつ)の《松縄呪(しょうじょうじゅ)》有(あ)り。若(も)し别人(たにん)を扣(から)め住(とど)めなば、就(すなわ)ち《緊縄呪(きんじょうじゅ)》を念(とな)えて、能(よ)く脱(のが)るることを得(え)ざらしめ、若(も)し自家人(じかじん=身内)を扣(から)め住(とど)めなば、就(すなわ)ち《松縄呪(しょうじょうじゅ)》を念(とな)えて、身(み)を傷(きずつ)くることを得(え)ざらしむ。彼(かれ)は是(こ)れ自家(じか)の宝貝(ほうばい)なるを認(みと)め得(え)、即(すなわ)ち《松縄呪(しょうじょうじゅ)》を念(とな)え、縄(なわ)を把(もっ)て松(ゆる)く動(うご)かし、便(すなわ)ち脱(のが)れ出(い)で、反(かえ)って行者(ぎょうじゃ)を望(めが)けて抛(な)げ将(ゆ)き去(さ)り、却(かえ)って早(はや)く大聖(たいせい)を扣(から)め住(とど)めたり。

大聖は正(まさ)に「瘦身法(しゅくしんぽう=身を縮める法)」を使(つか)い、身(み)を脱(のが)れんと想(おも)うとせしに、却(かえ)って那(か)の魔(ま)に《緊縄呪(きんじょうじゅ)》を念(とな)え動(うご)かされ、緊緊(きんきん)と扣(から)め住(とど)められて、怎(いか)でか脱(のが)るることを得(え)んや。褪(ゆる)めて頸項(けいこう=首)の下(した)に至(いた)れば、原(もと)是(こ)れ一箇(ひとつ)の金圈子(きんけんし=金の輪)の套(かぶ)せ住(とど)めたるなり。

那(か)の怪(かい)は縄(なわ)を将(もっ)て一扯(ひとき)に扯(ひ)き将(ゆ)き下(おろ)し、光頭(こうとう=坊主頭)を照(てら)して七八(しちはち)の宝剣(ほうけん)を砍(き)りたるに、行者(ぎょうじゃ)の頭皮児(とうひじ=頭の皮)も也(ま)た曾(かつ)て一紅(ひとあか)み紅(あか)まざりき。

那(か)の魔(ま)は言った。「此(こ)の猴(さる)め、汝(なんじ)が此(か)くの等(ごと)く頭(あたま)硬(かた)ければ、我(われ)汝(なんじ)を砍(き)らず、且(しばら)く汝(なんじ)を帯(たい)して回(かえ)り去(ゆ)きてより再(ふたた)び汝(なんじ)を打(う)たん。我(わ)が那(か)の両件(ふたつ)の宝貝(ほうばい)を将(もっ)て早(はや)きに趁(つ)けて我(われ)に還(かえ)せ!」

行者は言った。

「我(われ)汝(なんじ)が甚(なん)の宝貝(ほうばい)を拿(と)りしとて、汝(なんじ)我(われ)に問(と)うて要(よう)するや?」

那(か)の魔頭(まとう)は身(み)の上(うえ)を将(もっ)て細細(さいさい=こまごまと)捜検(そうけん=調べ)、却(かえ)って那(か)の葫芦(ひょうたん)・浄瓶(じょうへい)を都(ことごと)く捜(さぐ)し出(いだ)し、又(また)縄(なわ)を把(もっ)て牽(ひ)き着(つ)け、帯(たい)して洞(ほら)の裏(うち)に至(いた)りて道(い)わく、「兄長(けいちょう)、拿(とら)え将(きた)れり。」

老魔は言った。「誰(たれ)を拿(とら)え来(きた)れるや?」

二魔は言った。「孫行者(そんぎょうじゃ)なり。汝(なんじ)来(きた)りて看(み)よ、汝(なんじ)来(きた)りて看(み)よ。」

老魔は一見(いっけん)して、是(こ)れ行者(ぎょうじゃ)なるを認(みと)め、満面(まんめん)歓喜(かんき)して道(い)わく、「是(こ)れ彼(かれ)なり!是(こ)れ彼(かれ)なり!彼(かれ)を把(もっ)て長長(ながなが)の縄児(なわ)もて柱枓(ちゅうと=柱)の上(うえ)に拴(つな)ぎ着(つ)けて耍子(しゃし=慰み)にせん!」

真個(しんこ)に行者(ぎょうじゃ)を把(もっ)て拴(つな)ぎ住(とど)め、両箇(ふたり)の魔頭(まとう)は、却(かえ)って後面(こうめん=奥)の堂(どう)の裏(うち)に進(い)りて酒(さけ)を飲(の)む。

那(か)の大聖(たいせい)は柱根(ちゅうこん=柱の根)の下(した)に在(あ)りて爬蹉(はさ=もが)き、忽(たちま)ち八戒(はっかい)を驚動(きょうどう)せり。那(か)の呆子(ほうし)は梁(はり)の上(うえ)に吊(つる)されて、哈哈(はは)と笑(わら)うて道(い)わく、「哥哥(あにき)啊(や)、耳朶(みみ)は食(く)い成(な)らざるなり!」

行者は言った。「呆子(ほうし)よ、可(よ)く吊(つ)らるること自在(じざい)なるや。我(われ)如今(いま)就(すなわ)ち出(い)で去(ゆ)き、管情(きっと)汝(なんじ)らを救(すく)わん。」

八戒は言った。

「不羞(はずかしからず)!不羞(はずかしからず)!本身(ほんしん=自分の身)すら脱(のが)れ難(がた)きに、還(ま)た人(ひと)を救(すく)わんと想(おも)うとは。罷(や)めよ罷(や)めよ罷(や)めよ!師徒(しと)たち都(ことごと)く一処(ひとところ)に在(あ)りて死(し)し、好(よ)く陰司(いんし=冥府)の裏(うち)へ到(いた)りて路(みち)を問(と)わん!」

行者は言った。「胡説(こせつ)するなかれ!汝(なんじ)看(み)よ我(われ)の出(い)で去(ゆ)くを。」

八戒は言った。「我(われ)汝(なんじ)の怎(いか)にして出(い)で去(ゆ)くを看(み)ん。」

那(か)の大聖(たいせい)は口(くち)の裏(うち)にて八戒(はっかい)と話(はな)し、眼(め)の裏(うち)に却(かえ)って那些(これら)の妖怪(ようかい)を抹(み)る。彼(かれ)の裏(うち)に在(あ)りて酒(さけ)を飲(の)み、幾箇(いくたり)かの小妖(しょうよう)の盤(さら)を拿(と)り盞(さかずき)を拿(と)り、壺(つぼ)を執(と)りて酒(さけ)を酾(そそ)ぎ、絶(た)えず両頭(りょうとう)を乱(みだ)りに跑(はし)り、関防(かんぼう=見張り)の略(いささ)か些(しばら)く鬆(ゆる)めるを見(み)て、彼(かれ)は面前(めんぜん)に人(ひと)無(な)きを見(み)、就(すなわ)ち神通(じんつう)を弄(ろう)す。

棒(ぼう)を順(したが)え出(いだ)し、一口(ひとくち)の仙気(せんき)を吹(ふ)き、「変(へん)ぜよ!」と叫(さけ)べば、即(すなわ)ち変(へん)じて一箇(ひとつ)の純鋼(じゅんこう=純粋の鋼)の銼児(やすり)を作(な)し、那(か)の頸項(けいこう)の圈子(わ)を扳(こじ)過(あ)げ、三五銼(みつやすり)にして、銼(やすりかけ)て両段(りょうだん)と做(な)し、銼口(やすりあと)を扳(こじ)開(ひら)き、脱(のが)れ将(ゆ)き出(い)でたり。

一根(ひとすじ)の毫毛(ごうもう)を拔(ぬ)き、叫(よ)んで変(へん)じて一箇(ひとつ)の仮身(かりみ=偽りの身)を作(な)し、那処(あそこ)に拴(つな)ぎ着(つ)け、真身(しんしん)は却(かえ)って幌(ゆ)るること一幌(ひとゆれ)に、変(へん)じて箇(ひとり)の小妖(しょうよう)を作(な)し、旁辺(かたわら)に立(た)つ。

八戒は又(また)梁(はり)の上(うえ)に在(あ)りて喊(さけ)んで道(い)わく、「不好(よくない)了(かな)!不好(よくない)了(かな)!拴(つな)がれたるは是(こ)れ仮貨(にせもの)にして、吊(つ)られたるは是(こ)れ正身(しょうしん=本物)なり!」

老魔(ろうま)は杯(さかずき)を停(とど)めて便(すなわ)ち問(と)う、「那(か)の猪八戒(ちょはっかい)の吆喝(わめ)けるは是(こ)れ甚(なん)ぞ?」

行者は已(すで)に小妖(しょうよう)に変(へん)じ、上前(すす)みて道(い)わく、「猪八戒(ちょはっかい)は孫行者(そんぎょうじゃ)を攛道(そそのか)して『変化(へんげ)して走(に)げ了(おわ)らんか』と教(おし)えたるに、彼(かれ)肯(がえん)ぜずして走(に)げず、那処(あそこ)に在(あ)りて吆喝(わめ)けるなり。」

二魔は言った。「還(ま)た猪八戒(ちょはっかい)の老実(ろうじつ=正直)なりと説(と)くに、原来(もと)此(か)くの等(ごと)く老実(ろうじつ)ならざるかな!該(まさ)に二十(にじゅう)の多嘴棍(たすいこん=おしゃべりの罰棒)を打(う)つべし!」

此(こ)の行者(ぎょうじゃ)は就(すなわ)ち去(ゆ)きて一条(ひとすじ)の棍(こん)を拿(と)り来(きた)りて打(う)たんとす。八戒は言った。「汝(なんじ)打(う)つこと些(いささ)か軽(かる)くせよ。若(も)し些(いささ)か重(おも)くせば、我(われ)又(また)喊(さけ)び起(おこ)さん、我(われ)汝(なんじ)を認(みと)め得(う)るなり!」

行者は言った。「老孫(ろうそん)の変化(へんげ)は、也(ま)た只(た)だ汝(なんじ)らの為(ため)なるに、汝(なんじ)怎(いか)にして倒(かえ)って風息(ふうそく=消息)を走(はし)らせるや。此(こ)の一洞(ひとほら)の妖精(ようせい)は、都(ことごと)く認(みと)め得(え)ざるに、怎(いか)で偏(ひとえ)に汝(なんじ)のみ認(みと)め得(う)るや?」

八戒は言った。「汝(なんじ)頭臉(とうれん=頭と顔)を変(へん)じたると雖(いえど)も、還(ま)た曾(かつ)て屁股(けつ=尻)を変(へん)ぜず。那(そ)の屁股(けつ)の上(うえ)の両塊(ふたつ)の紅(あか)きは是(こ)れならずや。我(われ)此(こ)の因(ゆえ)に汝(なんじ)と是(こ)れなるを認(みと)め得(う)るなり。」

行者は随(したが)って後面(こうめん)に往(ゆ)き、厨中(ちゅうちゅう=台所)に演(いた)り到(いた)り、鍋底(なべぞこ)の上(うえ)を摸(さわ)ること一把(ひとつかみ)し、両臀(りょうでん=両の尻)を将(もっ)て擦(こす)り黒(くろ)くし、前辺(ぜんぺん)に行(ゆ)き至(いた)る。八戒(はっかい)は見(み)て又(また)笑(わら)うて言った。「那(か)の猴(さる)は何処(いずこ)へ去(ゆ)きて此(こ)の一会(ひととき)混(まぎ)れ、弄(な)して箇(ひとつ)の黒屁股(くろけつ=黒い尻)と做(な)し来(きた)れるかな。」

行者(ぎょうじゃ)は仍(な)お跟前(そば)に站(た)ち、彼(かれ)が宝貝(ほうばい)を偷(ぬす)まんと要(よう)す。真個(しんこ)に甚(はなは)だ見識(けんしき=思慮)有(あ)り。庁(ひろま)に上(のぼ)り、那(か)の怪(かい)に対(たい)して一箇(ひとつ)の腿子(たいし=膝)を扯(ひ)きて道(い)わく、「大王(だいおう)、汝(なんじ)看(み)よ、那(か)の孫行者(そんぎょうじゃ)は柱(はしら)の上(うえ)に拴(つな)がれて、左右(さゆう)に爬蹉(はさ=もが)き、那(か)の一根(ひとすじ)の金縄(きんじょう)を磨(す)り壊(こわ)さん。一根(ひとすじ)の粗壮(そそう=太く丈夫)なる些(しゃ=もの)の縄(なわ)を得(え)て換(か)え将(ゆ)き下(おろ)してこそ才(はじ)めて好(よ)けれ。」

老魔(ろうま)は言った。

「説(と)けることは是(せい)なり。」即(すなわ)ち腰間(ようかん)の獅蛮帯(しまんたい=獅子蛮の帯)を将(もっ)て解(と)き下(おろ)し、行者(ぎょうじゃ)に遞(わた)せり。

行者は帯(おび)を接(う)け、仮(いつわ)りに妝(よそお)える行者(ぎょうじゃ)を把(もっ)て拴(つな)ぎ住(とど)め、那(か)の一条(ひとすじ)の縄(なわ)を換(か)え下(おろ)し、一窩児窩児(いっかじかじ=ぐるぐると)袖(そで)の内(うち)に籠(こ)め、又(また)一根(ひとすじ)の毫毛(ごうもう)を拔(ぬ)き、一口(ひとくち)の仙気(せんき)を吹(ふ)き、変(へん)じて一根(ひとすじ)の仮(にせ)の幌金縄(こうきんじょう)を作(な)し、双手(もろて)にて那(か)の怪(かい)に送(おく)り与(あた)えたり。

那(か)の怪(かい)は只(た)だ酒(さけ)に貪(むさぼ)るが因(ゆえ)に、那(なん)ぞ曾(かつ)て細(こま)かに看(み)んや、就(すなわ)ち便(すみ)やかに収(おさ)め下(おろ)せり。此(こ)れ是(こ)れ

大聖(たいせい)騰那(とうな)して本事(ほんじ)を弄(ろう)し
毫毛(ごうもう)又(また)幌金縄(こうきんじょう)を換(か)う

なり。

此(こ)の件(ひとつ)の宝貝(ほうばい)を得(え)て、急(いそ)ぎ身(み)を転(めぐ)らして門外(もんがい)に跳(と)び出(い)で、原身(げんしん=元の姿)を現(あらわ)して高(たか)く叫(さけ)んで道(い)わく、「妖怪(ようかい)!」

那(か)の門(もん)を把(は)せる小妖(しょうよう)は問(と)うて道(い)わく、「汝(なんじ)は是(こ)れ甚(なん)の人(ひと)にして、此処(ここ)に在(あ)りて呼喝(こかつ=呼ばわる)や?」

行者は言った。「汝(なんじ)快(すみ)やかに早(はや)く進(い)り去(ゆ)き、汝(なんじ)が那(か)の潑魔(はつま)に報(ほう)ぜよ、説(い)え『者行孫(しゃぎょうそん)来(きた)れり』と。」

那(か)の小妖(しょうよう)は言(げん)の如(ごと)く報(ほう)ず。老魔(ろうま)は大(おお)いに驚(おどろ)いて道(い)わく、「孫行者(そんぎょうじゃ)を拿(とら)え住(とど)めたるに、又(また)怎(いか)にして一箇(ひとり)の者行孫(しゃぎょうそん)有(あ)るや?」

二魔は言った。「哥哥(あにき)、彼(かれ)を怕(おそ)るるに怎(なん)のことかあらん。宝貝(ほうばい)は都(ことごと)く我(わ)が手(て)の裏(うち)に在(あ)り。我(われ)に那(か)の葫芦(ひょうたん)を拿(と)り出(いだ)し去(ゆ)かしめ、彼(かれ)を装(い)れて将(きた)らしめよ。」

老魔は言った。「兄弟(けいてい)、仔細(しさい)。」

二魔は葫芦(ひょうたん)を拿(と)り、山門(さんもん)を走(はし)り出(い)づるに、忽(ふ)と見(み)る、孫行者(そんぎょうじゃ)と模様(ようぼう=姿)の一般(おなじ)なるも、只(た)だ是(こ)れ略(いささ)か矮(ひく)き些(しゃ=もの)なるを。問(と)うて道(い)わく、「汝(なんじ)は那処(いずこ)より来(きた)れるや?」

行者は言った。「我(われ)は是(こ)れ孫行者(そんぎょうじゃ)の兄弟(けいてい)なり。聞(き)くならく汝(なんじ)が我(わ)が家兄(かけい=兄)を拿(とら)えたると、却(かえ)って来(きた)りて汝(なんじ)と与(とも)に事(こと)を尋(たず)ねんとす。」

二魔は言った。「是(こ)れ我(われ)の拿(とら)えたるなり、洞中(どうちゅう)に鎖(つな)ぎ着(つ)けたり。汝(なんじ)今(いま)既(すで)に来(きた)れば、必(かなら)ず索戦(さくせん=戦いを求め)せん。我(われ)も亦(ま)た汝(なんじ)と与(とも)に兵(へい)を交(まじ)えず、我(われ)且(しばら)く汝(なんじ)を一声(ひとこえ)叫(さけ)ばん、汝(なんじ)敢(あ)えて我(われ)に応(こた)うるや?」

行者は言った。「可(べ)し怕(おそ)るるか汝(なんじ)の叫(さけ)ぶこと千声(せんせい)なるを、我(われ)は就(すなわ)ち汝(なんじ)に答(こた)えること万声(ばんせい)ならん!」

那(か)の魔(ま)は宝貝(ほうばい)を執(と)り、空(くう)の中(うち)に跳(と)び上(のぼ)り、底児(そこ)をして天(てん)に朝(むか)わしめ、口児(くち)をして地(ち)に朝(むか)わしめ、一声(ひとこえ)叫(さけ)んで「者行孫(しゃぎょうそん)」と。

行者は却(かえ)って敢(あ)えて答(こた)えず、心(こころ)の中(うち)に暗(あん)に想(おも)えらく、「若(も)し応(こた)えなば、就(すなわ)ち装(い)れられ進(い)り去(ゆ)かん。」

那(か)の魔(ま)は言った。「汝(なんじ)怎(いか)にして我(われ)に応(こた)えざるや?」

行者は言った。「我(われ)些(いささ)か耳閉(みみつぶれ=耳が遠い)にして、曾(かつ)て聴(き)き得(え)ず。汝(なんじ)高(たか)く叫(さけ)べ。」

那(か)の怪物(かいぶつ)は又(また)一声(ひとこえ)「者行孫(しゃぎょうそん)」と叫(さけ)ぶ。行者(ぎょうじゃ)は底下(した)に在(あ)りて指頭(ゆび)を掐(つま)んで一算(ひとかぞ)えして、道(い)わく、「我(わ)が真(まこと)の名字(みょうじ)は孫行者(そんぎょうじゃ)と叫做(よば)れ、起(おこ)したる鬼名字(きみょうじ=仮の名)は者行孫(しゃぎょうそん)と叫做(よば)る。真(まこと)の名字(みょうじ)は以(もっ)て装(い)る可(べ)く、鬼名字(きみょうじ)は好(よ)く道(い)わば装(い)る可(べ)からず。」

却(かえ)って就(すなわ)ち忍(しの)び得(え)ず、彼(かれ)に一声(ひとこえ)応(こた)えたれば、颼(しゅう)と彼(かれ)に吸(す)い込(こ)まれて葫芦(ひょうたん)の裏(うち)に進(い)り、帖児(ふだ)を貼(は)り着(つ)けられたり。

原来(もと)那(か)の宝貝(ほうばい)は、那(なん)の甚(なん)の名字(みょうじ)の真假(しんか)を管(かま)わんや、但(た)だ一箇(ひとつ)の応(こた)うるの気児(き)を綽(とら)えば、就(すなわ)ち装(い)り去(さ)るなり。

大聖(たいせい)は彼(かれ)が葫芦(ひょうたん)の裏(うち)に到(いた)り、渾然(こんぜん=すっかり)として烏黒(うこく=真っ暗)なり。頭(かしら)を把(もっ)て上(うえ)へ一頂(ひとつき)するも、那処(どこ)に頂(つ)き動(うご)かさんや、且(か)つ是(こ)れ塞(ふさ)ぐこと甚(はなは)だ緊(きつ)ければ、却(かえ)って才(はじ)めて心(こころ)の中(うち)に焦躁(しょうそう=いらだち)して道(い)わく、「当時(そのかみ)我(われ)山(やま)の上(うえ)に在(あ)りて、那(か)の両箇(ふたり)の小妖(しょうよう)に遇(あ)えるに、彼(かれ)曾(かつ)て我(われ)に告誦(こくしょう)して説(と)けり、『葫芦(ひょうたん)浄瓶(じょうへい)に拘(かかわ)らず、人(ひと)を裏(うち)に装(い)れれば、只(た)だ一時三刻(いちじさんこく)を消(よう)して、就(すなわ)ち化(か)して膿(うみ)と為(な)る』と。敢(あ)えずや莫(も)しや我(われ)を化(か)し了(おわ)れるならんか?」

一条(ひとすじ)の心(こころ)又(また)想(おも)えらく、「没事(ぶじ)!化(か)すこと得(え)じ!老孫(ろうそん)は五百年前(ごひゃくねんぜん)に天宮(てんぐう)を大鬧(だいどう)し、太上老君(たいじょうろうくん)に八卦炉(はっけろ)の中(うち)に放(お)かれて四十九日(しじゅうくにち)煉(ね)られ、煉(ね)り成(な)して箇(ひとつ)の金子心肝(きんすしんかん=金の心肝)、銀子肺腑(ぎんすはいふ=銀の肺腑)、銅頭鉄背(どうとうてっぱい=銅の頭鉄の背)、火眼金睛(かがんきんせい)と為(な)れり。那処(どこ)に一時三刻(いちじさんこく)にして就(すなわ)ち我(われ)を化(か)し得(え)んや。且(しばら)く彼(かれ)と進(い)り去(ゆ)き、彼(かれ)の怎(いか)にするを看(み)ん!」

二魔は拿(と)りて裏(うち)に進(い)りて道(い)わく、「哥哥(あにき)、拿(とら)え来(きた)れり。」

老魔は言った。「誰(たれ)を拿(とら)えしや?」

二魔は言った。「者行孫(しゃぎょうそん)なり、是(こ)れ我(われ)葫芦(ひょうたん)の裏(うち)に装(い)りたるなり。」

老魔は歓喜(かんき)して言った。「賢弟(けんてい)請(こ)う坐(ざ)せよ。

動(うご)かすこと勿(なか)れ、只(た)だ揺(ゆす)りて響(ひび)くを得(え)てより再(ふたた)び帖児(ふだ)を掲(あ)げよ。」

行者は聴(き)きて道(い)わく、「我(われ)が此(か)くの般(ごと)き一箇(ひとつ)の身子(からだ)にて、怎(いか)で便(すなわ)ち揺(ゆす)りて響(ひび)き得(え)んや。只(た)だ化(か)して稀汁(きじゅう=どろどろの汁)と為(な)るを除(のぞ)かば、才(はじ)めて揺(ゆす)りて響(ひび)く可(べ)きなり。我(われ)に一泡(ひとつ)の溺(にょう=小便)を撒(ひ)らしめんか、彼(かれ)若(も)し揺(ゆす)りて響(ひび)くを得(え)ば、一定(きっと)帖(ふだ)を掲(あ)げ蓋(ふた)を起(おこ)さん。我(われ)空(すき)に乗(の)じて走(に)げ他娘(にげちま)わんか!」

又(また)思(おも)えらく、「不好(よくない)不好(よくない)!溺(にょう)は響(ひび)く可(べ)しと雖(いえど)も、只(た)だ是(こ)れ此(こ)の直裰(じきとつ=法衣)を汚(けが)さん。彼(かれ)が揺(ゆす)る時(とき)を等(ま)ち、我(われ)但(た)だ些(いささ)かの唾津(だえき)を聚(あつ)めて口(くち)を漱(すす)ぎ、稀漓呼喇(きりこらつ=どろどろ)と、彼(かれ)を哄(だま)して掲(あ)げ開(ひら)かせ、老孫(ろうそん)再(ふたた)び走(に)がんか。」

大聖(たいせい)は準備(じゅんび)を作(な)し了(おわ)るに、那(か)の怪(かい)は酒(さけ)に貪(むさぼ)って揺(ゆす)らず。大聖(たいせい)は一箇(ひとつ)の法(ほう)を作(な)し、意思(いし=つもり)は只(た)だ彼(かれ)を哄(だま)して来(きた)りて揺(ゆす)らせんとす。忽然(たちまち)叫(さけ)んで道(い)わく、「天(てん)呀(や)!孤拐(ここい=踝)が都(ことごと)く化(か)し了(おわ)れり!」

那(か)の魔(ま)は也(ま)た揺(ゆす)らず。大聖(たいせい)は又(また)叫(さけ)んで道(い)わく、「娘(はは)啊(や)!腰截骨(ようせいこつ=腰椎)を連(つら)ねて都(ことごと)く化(か)し了(おわ)れり!」

老魔は言った。「腰(こし)に化(か)し至(いた)れば、都(ことごと)く化(か)し尽(つく)せり。帖児(ふだ)を掲(あ)げ起(おこ)して看看(みてみ)よ。」

那(か)の大聖(たいせい)はこれを聞き、就(すなわ)ち一根(ひとすじ)の毫毛(ごうもう)を拔(ぬ)き、「変(へん)ぜよ!」と叫(さけ)べば、変(へん)じて箇(ひとつ)の半截(はんせつ=半分)の身子(からだ)を作(な)し、葫芦(ひょうたん)の底(そこ)の上(うえ)に在(あ)らしめ、真身(しんしん)は却(かえ)って変(へん)じて箇(ひとつ)の蟭蟟虫児(しょうりょうちゅうじ)と作(な)り、那(か)の葫芦(ひょうたん)の口辺(くちべた)に釘(と)り着(つ)けり。

只(た)だ見(み)る、那(か)の二魔(にま)の帖児(ふだ)を掲(あ)げ起(おこ)して看(み)る時(とき)、大聖(たいせい)は早(はや)く已(すで)に飛(と)び出(い)で、一箇(ひとつ)の滚(ころび)を打(う)ち、又(また)変(へん)じて箇(ひとり)の倚海龍(いかいりゅう)と作(な)せり。倚海龍(いかいりゅう)は却(かえ)って是(こ)れ原(もと)老奶奶(ろうばばさま)を請(まね)きに去(ゆ)きし那(か)の小妖(しょうよう)なり。彼(かれ)は変(へん)じて、旁辺(かたわら)に站(た)てり。

那(か)の老魔(ろうま)は葫芦口(ひょうたんのくち)を扳(こじ)き、一張(ひとつ)を張(のぞ)きて、是(こ)れ箇(ひとつ)の半截(はんせつ)の身子(からだ)の動耽(うごめく)なるを見(み)て、彼(かれ)も亦(ま)た真假(しんか)を認(みと)めず、慌忙(こうぼう)として叫(さけ)んで道(い)わく、「兄弟(けいてい)、蓋(ふた)をせよ!蓋(ふた)をせよ!還(ま)た曾(かつ)て化(か)し得(え)了(おわ)らざるなり!」

二魔は依旧(もとのごとく)貼(は)り着(つ)けたり。大聖(たいせい)は旁(かたわら)に在(あ)りて暗(あん)に笑(わら)うて道(い)わく、「老孫(ろうそん)の已(すで)に此処(ここ)に在(あ)るを知(し)らざるかな!」

那(か)の老魔(ろうま)は壺(つぼ)を拿(と)り、満満(まんまん)と一盃(ひとさかずき)の酒(さけ)を斟(つ)ぎ、近(ちか)づき前(すす)みて双手(もろて)にて二魔(にま)に遞(わた)して道(い)わく、「賢弟(けんてい)、我(われ)汝(なんじ)と与(とも)に一箇(ひとつ)の鍾児(さかずき)を遞(わた)さん。」

二魔は言った。「兄長(けいちょう)、我(われ)ら已(すで)に此(こ)の半会(ひととき)の酒(さけ)を食(の)み了(おわ)れるに、又(また)甚(なん)の鍾(さかずき)を遞(わた)すや?」

老魔は言った。「汝(なんじ)唐僧(とうそう)・八戒(はっかい)・沙僧(しゃそう)を拿(とら)え住(とど)めたるは猶(な)お可(よ)し、又(また)孫行者(そんぎょうじゃ)を索(もと)め、者行孫(しゃぎょうそん)を装(い)れり。此(か)くの如(ごと)き功労(こうろう)なれば、該(まさ)に汝(なんじ)と与(とも)に幾鍾(いくさかずき)か多(おお)く遞(わた)すべし。」

二魔は哥哥(あにき)の恭敬(きょうけい=うやうやしき)なるを見(み)て、怎(いか)で敢(あ)えて接(う)けざらんや。但(た)だ一只手(かたて)にて葫芦(ひょうたん)を托(ささ)げ、一只手(かたて)は敢(あ)えて去(ゆ)きて接(う)けず、却(かえ)って葫芦(ひょうたん)を把(もっ)て倚海龍(いかいりゅう)に遞(わた)し、双手(もろて)にて去(ゆ)きて杯(さかずき)を接(う)けんとす。那(か)の倚海龍(いかいりゅう)の是(こ)れ孫行者(そんぎょうじゃ)の変(へん)ぜしものなるを知(し)らず。

汝(なんじ)看(み)よ彼(かれ)の葫芦(ひょうたん)を端(ただ)しく持(も)ち、殷勤(いんぎん=丁寧)に奉侍(ほうじ)するを。二魔(にま)は酒(さけ)を接(う)けて食(の)み、也(ま)た一盃(ひとさかずき)を回奉(かいほう=返杯)せんと要(よう)するに、老魔(ろうま)は言った。「酒(さけ)を回(まわ)すを消(よう)せず、我(わ)が此処(ここ)に汝(なんじ)に陪(ばい)して一盃(ひとさかずき)せんか。」

両人(ふたり)は只(た)だ管(ひたすら)謙遜(けんそん=譲り合い)す。行者(ぎょうじゃ)は葫芦(ひょうたん)を頂(いただ)き、眼(め)を転(めぐ)らさず、彼(かれ)両箇(ふたり)の左右(さゆう)に杯(さかずき)を伝(つた)うるを看(み)て、全(まった)く計較(けいこう=用心)無(な)きを見(み)、彼(かれ)は就(すなわ)ち一箇(ひとつ)の葫芦(ひょうたん)を把(もっ)て衣袖(いしゅう=袖)のうちに揌(おしこ)め、一根(ひとすじ)の毫毛(ごうもう)を拔(ぬ)きて変(へん)じて一箇(ひとつ)の仮(にせ)の葫芦(ひょうたん)と作(な)し、一様(おなじ)にして二(ふたつ)無(な)く、手(て)の中(うち)に捧(ささ)げたり。

那(か)の魔(ま)は一会(ひととき)酒(さけ)を遞(わた)し、也(ま)た真假(しんか)を看(み)ず、一把(ひとつかみ)に宝貝(ほうばい)を接(う)け過(わた)し、各(おの)おの席(せき)に上(のぼ)り、安然(あんぜん)として坐(ざ)し、依然(いぜん)として叙飲(じょいん=語らい飲み)す。

孫大聖(そんたいせい)は身(み)を撤(ひ)いて走(はし)り過(す)ぎ、宝貝(ほうばい)を得(え)て、心(こころ)の中(うち)に暗(あん)に喜(よろこ)んで道(い)わく、

「饒(たと)い此(こ)の魔頭(まとう)に手段(しゅだん)有(あ)るも、畢竟(つい)に葫芦(ひょうたん)は還(ま)た姓(せい)を孫(そん)と為(な)す!」

畢竟(つい)に向后(こののち)怎(いか)なる様(さま)に施為(しい=振る舞い)して、方(はじ)めて師(し)を救(すく)い怪(かい)を滅(ほろぼ)すことを得(う)るを知(し)らず、且(しばら)く下回(かかい)の分解(ぶんかい)を聴(き)け。